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図解手帖 ZUKAI TECHO

お米の値段の仕組み|生産から店頭まで5段階、誰がリスクを持つのか

米価が上がると「中抜き」が名指しされ、下がると別の段階が痛みます。農水省のコスト調査と大手米卸の決算から、生産・集荷・卸・小売の5段階でコストとリスクがどう分かれているかを整理。相対価格とスポット価格の違い、概算金の仕組みまで公式出典付きでまとめます。

節約 読了 8 分 公開: 最終更新:
お米の流通で生産者・米卸・小売がそれぞれ引き受けているリスクの違いを比較した図解
お米の流通で生産者・米卸・小売がそれぞれ引き受けているリスクの違いを比較した図解

米価が上がるたびにSNSでは中間業者が名指しされ、下がると今度は生産者が苦しいと報じられます。「では誰がいくら取っているのか」を1つの数字で答えたくなりますが、公表資料を追うと答えは金額ではなく「リスクの置き場所」の違いでした。生産・集荷・卸・小売のどこにも、値動きを一方的に得に変えられる位置はありません。

その前に、「米価」は4つある

話が噛み合わなくなる最大の原因がここです。よく使われる「米の価格」には少なくとも4種類あり、測定対象も時期も集計方法も違います。

呼び方何の価格か
相対(あいたい)取引価格産地の系統組織と米卸の間で、あらかじめ数量を決めて取引する価格
スポット価格業者間で必要なときに売買される価格。需給の変化が最も早く出る
POSデータ農水省が集計する、スーパーの実際の販売数量・価格
小売物価統計総務省が調べる統計上の店頭価格。物価ウォッチで扱っているのはこれ

「相対価格は高いのに店頭が下がっている」といった一見矛盾する報道は、この4つが混ざると生まれます。以下の話でも、どの価格の話かを都度ことわります。

流通は5段階、コストは各段階に積み上がる

生産者 → JA(地域段階)→ 全農県本部・経済連(都道府県段階)→ 米卸 → 小売、という順に米は動きます。JAが2段階になっている点が見落とされがちです。これとは別に、生産者が卸や消費者へ直接売るルートもあり、近年増えています。

農林水産省は各段階のコストとマージンを調査しています(コスト構造の実態調査、令和7年12月一部修正版)。全国平均は次のとおりです。

段階コストマージン
生産232.5円▲30.7円
集荷(地域段階・JA)28.0円▲22.2円
集荷(都道府県段階)18.8円▲4.6円
卸売31.6円+2.0円
小売50.2円+5.7円
小売価格311.4円

単位は玄米1kgあたり。マージンは、その段階の販売価格から仕入価格と当該段階のコストを差し引いた残りにあたります。

この表の読み方には強い注意が必要です。 これは統計調査ではなく、農水省自身が「モデルケース」と明記した事例調査で、首都圏向けに流通する1本のルートをたどったものです。生産段階は令和4年産、卸売・小売のコストは令和5年度と年次がずれており、対象は米卸6社・小売5社という小さな規模です。販売促進費や協賛金は把握できていないと注記されています。米が安かった令和4年産のモデルであって、いまの店頭価格の内訳ではありません。

そして最も誤解を招きやすいのが、卸売の+2.0円です。同じ調査の産地区分別を見ると、卸売マージンは+3.0円から+36.7円まで開いており、全国平均の+2.0円はどの産地よりも低い値になっています。「卸のマージンは2円しかない」と要約するのは正確ではありません。 各段階のマージンが残差として算出される計算方法によるもので、産地によって実態がかなり違う、というのが読み取れる限界です。

高騰局面:卸は過去最高益になった

2024年から2025年にかけての高騰局面で、米卸の決算は跳ね上がりました。東証スタンダード上場の米卸大手・木徳神糧の2025年12月期は、売上高1,761億9,100万円(前期比+48.1%)、経常利益81億6,900万円(同+228.7%)、親会社株主に帰属する当期純利益55億2,000万円(同+220.2%、前期の約3.2倍)で、同社は決算説明資料で「過去最高益」と表現しています。

SNSで中間業者が名指しされる根拠は、この局面の数字にあります。ただしこれは物語の半分です。

下落局面:同じ卸が営業利益8割減になった

2026年に入って米価が下がると、同じ会社の数字は逆に振れました。2026年12月期の中間期(1〜6月)は、売上高884億2,800万円(前年同期比+5.3%、中間期として過去最高)を確保しながら、営業利益は8億8,000万円で83.3%減、中間純利益7億3,200万円で80.2%減。営業利益率は6.3%から**1.0%**へ落ちています。米穀事業だけで見ると営業利益は前年同期から44億8,300万円減りました。

売上が増えているのに利益が消える——ここに卸という段階の性質が出ています。同社の説明はこうです。卸は量販店・外食・中食に年間を通じて安定供給する責任を負うため、系統組織などを通じて早い段階に必要量を確保する。結果として令和7年産の高値の在庫を抱えたまま下落局面に入る。一方、市場から機動的に仕入れる事業者は下落したスポット価格で調達できる。2026年6月時点で相対取引価格は60kgあたり31,305円、スポット価格は19,111円と大きく開いており、その安値に対応せざるを得ないため、在庫を売るほど利益率が下がるという構図です。

背景には需給の反転があります。6月末の民間在庫は令和7年の155万トンから令和8年は243万トンへ、1年で88万トン増えました。需要量は683万トンまで減っています。

上場企業の決算数値は事実として引用していますが、本記事は特定企業の株式や投資判断について述べるものではありません。

生産者:下落は翌年に繰り延べられる

生産者側では、下落の受け取り方がまた違います。出荷時にJA等から支払われる**概算金(仮渡金)**は、その時点では最終的な販売価格が決まっていないため、先に渡される一定額です。販売の見通しが立った時点で、販売見込額から経費と概算金を引いた額が追加払いされます。

2026年産の概算金は、大幅な下落が相次いで報じられました。JA全農にいがたが8月18日に決めた一般コシヒカリ(1等米・60kg)は18,500円で、2025年産の当初概算金30,000円から38%の下落。北海道のななつぼしは17,000円(前年29,000円)、福井のコシヒカリは17,000円(同29,000円)、富山のコシヒカリは20,000円(同26,000円)と、いずれも2〜4割の下げ幅です。

ここで2つ、正確を期しておきます。ひとつは、報じられているこれらの金額は全農県本部などが地域JAに支払う「JA概算金」であり、生産者が実際に受け取る額は各JAが別に決めるという点。もうひとつは、新潟の「38%減」は当初概算金どうしの比較である点です。2025年産は後に一律3,000円の追加払いが決まって33,000円になっているため、そちらを基準にすると下げ幅はさらに大きくなります。

そして生産者には、構造的な制約があります。米は1年1作なので、価格が動いてから作付けを変えることができません。 高い年に増産を決めても、収穫が来るころには需給が反転している。卸のように在庫を圧縮して損失を止めるという手も持ちません。下落は、その年ではなく翌年の概算金の水準として返ってきます。

まとめ:リスクの置き場所が段階ごとに違う

  • は在庫を持つ役割ゆえに両側に振れる。上がれば過去最高益、下がれば営業利益8割減。守られている段階ではありません。
  • 小売は在庫の回転が速く、仕入れの変動を値札に反映しやすい。3者のなかでは最も振れ幅が小さい位置にいます。
  • 生産者は反応する手段が構造的に乏しく、下落を翌年に繰り延べて受け取ります。

「高騰=卸が儲ける/下落=卸が守る」という非対称ではない、というのがここまでで言えることです。買う側にできるのは、値動きのニュースを見たときにどの「米価」の話かを確かめることくらいですが、それだけでも話の見え方はかなり変わります。

情報の正確性について:本記事のコスト・マージンは農林水産省のモデルケース調査(令和4年産・首都圏向け流通の事例、卸売・小売のコストは令和5年度)に基づく数値で、現在の店頭価格の内訳ではありません。企業の決算数値は公表時点のものです。概算金は各産地・各JAで扱いが異なり、生産者の受取額とは一致しません。最新の状況は農林水産省の公表資料でご確認ください。

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この記事を書いた人

図解手帖編集部 編集部

暮らしの実用情報を1枚図解+解説でお届けする編集部です。公式・一次情報を出典に、断定を避けた正確な情報発信を心がけています。

よくある質問

「米価」はどれを見ればいいですか?
目的によって見るべき数字が違います。産地の系統組織と米卸の間の価格が「相対取引価格」、業者間で機動的に売買される価格が「スポット価格」、スーパーの実売を集計したのが農水省のPOSデータ、統計上の店頭価格が総務省の小売物価統計です。測定している対象も時期も違うので、4つを混ぜて比べると話が食い違います。ニュースで「米が下がった」と言うとき、どれを指しているかを確かめてください。
概算金とは何ですか?
JA等の集荷業者が、生産者から米を出荷してもらう際に支払う仮渡金です。農林水産省の資料によると、県単位で全農県本部・経済連が決定し(地域によってはJAが買い取ったり独自に決めたりする場合もあります)、販売の見通しが立った時点で、販売見込額から経費と概算金を差し引いた額が追加払いされます。出荷時点では最終的な販売価格が決まっていないため、先に一定額を渡す仕組みです。
結局「中抜き」されているのですか?
公表資料から言えるのは、段階ごとに引き受けているリスクが違う、ということまでです。農水省のコスト調査は全国平均で卸のマージンを玄米1kgあたり+2.0円としていますが、これはモデルケースの事例調査で、同じ調査の産地別では+3.0円から+36.7円まで開きがあります。ひとつの数字で「誰がいくら抜いている」と断じられる材料は、公表資料の範囲では見当たりません。

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